RSS | ATOM | SEARCH
絶海にあらず(上) 第6章 海鳴りの日
絶海にあらず 上 (1) (中公文庫 き 17-8)
絶海にあらず 上 (1) (中公文庫 き 17-8)
北方 謙三(著)

第6章の感想です。

敵意や警戒心をもって接してきた者を自分の側に引き込んでしまう不思議な魅力が、純友にはあります。

この第6章にも、その一例がありました。

丹奈重明という男が、純友に喧嘩を吹っかけてきます。

丹奈重明は純友に恨みがあります。彼の一族が海賊行為を働いたため、純友に討伐され、命を落としたんです。

つまり丹奈重明にとって純友は、一族のカタキというわけです。

純友は言います。

「馬鹿か、おまえは?」「俺は、賊徒を討ち、捕まえた。それだけのことだ。海賊を働いたおまえらが、悪いのではないか。逆恨みもいい加減にしろ」

こう言われて丹奈重明は激怒し、純友を斬り殺そうとします。

ここからが純友のすごいところです。

いくつかの言葉を交わしてぶつかり合った末、一瞬、丹奈重明の殺気が薄らいだところで、純友はこう言います。

「斬り合いたければ、斬り合ってやる。その前に、話をしても悪いことはあるまい」

純友にそう言われて、丹奈重明はわずかに迷います。

すかさず純友は、

「男はな、なんでもすっぱりと決めろ。話すと決めたら、太刀などは抜かん。斬り合うと決めたら、どちらかが死ぬまでやる。そういうものではないか」

と声をかけます。ここで勝負ありです。丹奈重明は純友を睨みつけながらも、一族が海賊行為を働かざるを得なかった詳しい事情を話し始めます。

これはほんの一例です。

敵意や警戒心をもってあらわれた数々の男たちが、純友の手に落ちていきます。そこには人間の心をつかむリアルな呼吸があります。

生々しい人間関係の機微です。それを読むことが、この小説のひとつの楽しみですね。
author:あーりー, category:平安鎌倉(藤原純友の歴史小説), 20:33
-, -, pookmark