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『冥府の花』 (木下吉隆)
自分の人生を、「秀吉という強烈な個性の持ち主によって作られ」、しかも「秀吉によって壊された」人々がいます。

木下吉隆もその一人でした。

『冥府の花』は、木下吉隆が流罪となって薩摩に移り住んだあとの日々を描いた小説で、火坂雅志の短編集『壮心の夢 (徳間文庫)』に収められています。

<あらすじ>

木下吉隆は、秀吉の妻ねねの遠縁にあたる木下家に生まれ、「人生のすべてを秀吉の天下取りのために費やして」きました。

しかし「豊臣家の跡目争いに巻き込まれて」失脚し、薩摩に流されます。

跡目争いに巻き込まれたのも、自分の意思ではありません。秀吉に頼まれて仕方なく、跡目争いに関わることになったんです。

その結果、当の秀吉から流罪を言い渡されるはめになりました。

「わしの人生とは、いったい何であったのだろうか」と物思いに沈む吉隆でしたが、流された薩摩の地で一人の女性と出会います。

<感想>

木下吉隆は、「太閤秀吉の意を伝える奏者」として大名に命令を下したり、関白秀次の後見役として尽力したりと、輝かしい日々を送っていました。

しかし、そうした現役時代よりも、流人として薩摩で暮らした毎日にこそ、彼の本当の人生があったのかも知れません。

彼はつねに「破滅への不安と予感」を感じながらも、一人の女性に耽溺し、「生きているあかしは、いまここにのみある」と確信します。

でもとうとう「破滅への不安と予感」が現実のものになるんですね。

吉隆は、秀吉に振り回されるのではなく、自分が自分として生きられる場所を見つけました。見つけたと思っていました。

でもそれは「秀吉によって壊された」人生の、延長でしかなかったのでしょうか。

タイトルの『冥府の花』とは、ダチュラ(朝鮮朝顔)のこと。

花は美しく、香りは甘いのですが、根や葉を服用すると幻覚が見え、死に至ることもあるそうです。

吉隆と女性は、あえてダチュラの葉を噛み、「かるい幻覚に酔いながら」交わりをもつようになります。

こうしてみると、吉隆の人生の最後を豊かにしたこの女性は、吉隆にとってのダチュラだったのかなぁ、とも思うんです。

『壮心の夢』に収録されている他の作品、目次についてはコチラをどうぞ。
author:あーりー, category:戦国時代(木下吉隆の歴史小説), 23:46
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